前回の記事から随分ご無沙汰してしまった。

医学部医学科に入学した学生は6年間の大学生活を終えると全員が研修医になる。研修医の期間は2年間(一部では3年間)であり、内科や外科に関係なくあるゆる診療科を数か月ずつローテーションする。初期研修を終えると一旦研修先の病院とは契約が切れるので、2年目の中頃から、3年目以降の就職活動を行うのが一般的である。選択肢は豊富であり、研修医生活を送った病院に継続して勤めてもいいし、大学病院に戻っても良い。医師の就職活動は基本的には売り手市場なので、自分の人生設計に基づいて好きなように選べる。

しかし、将来的にはアメリカで臨床を行いたい場合は事情が異なる。日本の医学部を卒業した医師がアメリカで臨床を行うには、アメリカの医師国家試験(USMLE: United States Medical Licensing Examination)に合格し、さらにアメリカでの就職活動を行う必要がある。さらに日本でのみ臨床経験をしただけでは英語力はむろん、アメリカの医療機関に慣れもなく、何より就職に必須である「コネ(推薦状)」が手に入らない。

なので、類い稀な研究成果や、学生の頃から長期的努力を行っているような、スーパーな方々を除いて、正攻法でアメリカの医療シーンに潜り込むのは「ほぼ無理」と言える。
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しかし実は、一つ抜け道がある。国内にいながら米国医療を実践できる場所があるのだ。

第二次世界大戦後、アメリカに降伏した日本には、アジア攻略の起点として、全国に100以上の大小様々の米軍基地が散在していることはご存知だろう。日本国内でありながら、これらの基地の中では数万人のアメリカ人の兵隊とその家族が住み、小中高、スーパーマーケット、カフェ、図書館や映画館などの施設が揃い、ほとんど「小さなアメリカの街」といった様相である。そしてその中には、言わずもがな、「病院」も存在する。実は日本の医師免許でこれら米軍基地の病院で1年間のインターンシップが可能なのである。これらは戦後にマッカーサー司令の提案で作られたプログラムであり、数十年の歴史がある。アメリカで活躍する多くの日本人医師が米軍基地での研修を行い、その後のステップアップにつなげている。

これらのプログラムは横須賀と沖縄海軍基地で行われており、それぞれ5人の定員に毎年30−40人が申し込むため、かなりの倍率である。採用基準も曖昧であり、狭き門となっている。

去年まではこれら2箇所の米軍基地しか研修先はなかったのだが、なんと2015・2016年度からさらに2か所の基地で3人ずつの研修の受け入れが始まった。これで定員5+5+3+3=で計16人が採用されることとなった。

米軍基地の住人は、基本的には兵隊なので若く、その多くが健康である。受診する患者のほとんどが軽症であり、医者としての経験値が高まるかは正直かなり微妙ではある。ただ研修の目的が「英語のさらなるブラッシュアップ、留学の斡旋、推薦状の依頼」といったアメリカ本国での就職への下積みの場合はそこまで問題にはならないだろう。先方も我々日本人研修生の要求は理解しており、最大限に尊重してくれるようだ。

困ったこととしては給料が安いことだろう。
現実的な選択肢として熟考していただきたい。