June 2016

(2016/7/2:補足しました)

金がない!
今年の4月からの勤務先は、とある事情で給料が劇的に少ない。

具体的に言うと手取りで月20万、家賃は別、賞与なし、である。僕は一人暮らしなので、普通に生活する分には全く困らない額ではあるが、決してリッチとは言えない。 研修医時代の給料が年収600万ぐらいあったので、金銭感覚がその時のまま固定してしまっており、かなり貧相な気分で日々生活している。



医者の非常勤とは?
そこで勤務先とは別の病院で、働ける時にだけ仕事を入れる「非常勤」を行うことにした。

医者としての非常勤とは、土日・祝日や夜間などに人手(医者の手)が足りなくなった際に、その病院に所属していない医師が代わりに勤務をするというシステムである。内容としては、病院の中で一晩過ごし、入院患者の状態悪化に対応したり、時間外の患者の診察にあたったりするのが一般的だ。

給与は病院の立地に左右されることが多いが、一般的には一晩10万円弱が相場なようだ。だいたい土日の夜間に入ることが多い。勤務の大変さはかなりばらつきがあるが、田舎の病院であれば一晩患者が一人もこないことはザラにあり、病院の中で寝ているだけで終わることも多々ある。

大学病院の医者は、大学病院からの給料は中堅の医師でも1000万円ほどだが、この非常勤をたくさん行う事で、それなりの収入を確保している。これを医師間では「バイト」と呼んでいる。
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↑医師のバイブル「ブラックジャックによろしく」にも同様のシーンがある。

アメリカへの就職活動には渡航費や試験勉強など多額のカネがかかる。既に100万円以上投入しているわけだが、今後も金は必要だ。僕も新しい非常勤先と勤務日程の交渉に入っている最中である。



医者の新しい働き方
近年、所属する職場を持たず、この非常勤を繰り返すのを生業としている新しい働き方をしている医者も出てきている。一番多いのが麻酔科医だ。理由は、麻酔科医というのは手術室で麻酔をかけ終わったら、その患者にはノータッチになるので、仕事が一日で完結するからである。普通の医師ではそうはいかず、数日間は続けて同じ患者に接することとなる。非常勤オンリーの働き方をするのは一部の専門科の医師に限られる。

僕の知るとある麻酔科医は30代後半であったが、年収3000−4000万円ほどもあるとのことだった。一般的な勤務医の年収は1500万円ほどであるので、この額は破格である。開業しないのであれば、勤務医の中ではフリーの麻酔科医は最も稼いで専門の一つだろう。



医者という仕事の市場価値
医師の仕事に限らない話なのだろうが、「金を稼ぐこと」と「医師としての優秀さ、世の中の役に立っている度合い」は全く関係がない。しかし、金を稼ぐことにフォーカスすれば能力の多寡にかかわらず確実に大金を稼ぐことができるのが、医師という仕事の現実なのである。 

現在、医学部人気はとどまることを知らず、大学受験の偏差血はうなぎのぼりに上昇し続けている。その理由は明白であり、この傾向は今後続いていくことだろう。 



補足①:この記事内の「非常勤」は一番多い勤務内容である「夜間の病棟当番+時間外受診の対応」についてだ。この内容の場合、初期研修を終えていれば、誰でも同じ給料であることが多い。仕事の能力に関係なく医者3年目であるというだけで、これだけ条件の良いアルバイトが行える医師という職業は、やっぱり美味しいよね、というのが骨子。「じゃあそれ(非常勤)ばっかりやればいいじゃん」と思うかもしれないが、雇用側の病院も経費は削減したいので、当然通常は常勤の医師を雇って勤務表を埋めている。どうしても働き手がいない日のみ、このような「非常勤」が呼ばれるのだ。そんなに募集自体は多くない。

補足②:同業者の方から「本当にこんなに条件の良い非常勤があるのか?」との質問を受けた。確かに求人広告で探すと、一晩5−6万円のことが多いようだ。広告会社に中間マージンを取られていることと、都会での勤務が多いからだと推察される。 僕自身は求人広告を利用したことがなく、非常勤先の病院とダイレクトに交渉しているので、条件が良くなっているのだろう。同業者の皆さん、研修医のうちから近所の小さな病院とは仲良くしておきましょう。

今回は2014年に僕が米国医師国家試験(USMLE STEP1)を受けた時の感想文を見つけたので、皆さんにシェアさせていただきたい。



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5月の末にUSMLE STEP1(米国医師国家試験)という試験受けました。そのことに関して雑感をまとめます。 もともと自分はアメリカでの臨床留学、レジデンシーマッチングも視野に入れて考えています。そのためにSTEP1を受験をすることは、それこそ大学1年生に初めてその存在を聞いた時から決めていました。

そうはいってもなかなか勉強に身が入らず、結局、本格的にSTEP1の勉強を始めたのは5年生の12月からでした。受験したのは2014年の5月末なので、1年半ぐらいやってたことになります。結構長いこと勉強していますね。

絶対にイイ点を取らなければならない。そしてSTEP1は年中受けれます。これが曲者で、「俺は留学に対して本気だから、良い点とれると確信するまで受けねぇぜ」と宣言すれば受ける時期を永遠に延期できてしまうんです。

結局大学生の時は受験する覚悟が出ず、怒涛の研修が始まりました。睡眠時間4-5時間に抑えて、早朝3時から始業までの間を勉強に当てていました。院内を移動する際も歩きながら勉強していました。

こういう話をすると「どや!俺の努力すげぇだろ」というエピソードの紹介の様に映るかもしれませんが、そういう意図ではありません。自らの意志で忙しい病院を研修先に選んだのですから。自分の勉強する時間を確保できないことを知っていた上での愚行です。研修にも悪影響が出たでしょうし、アホとしか言いようが有りません。そんな中での受験。終わった直後は、絶対落ちたと思っていました。



USMLEについて調べると、成功体験やすごいスコアでパスする人ばかり目につきます。しかし、なんと日本人の年間の合格率は半分程度だそうです。受験料は15万円位かかるのを踏まえると、記念受験する人はそんなに存在しないかと思います。ここから一つ言えるのは、日本の医学生や医師にとって、この試験は非常に難しいということです。

そして、国家試験や期末試験のように絶対に受験しなければならない試験でも有りません。そんな困難な関門を、自分の「意思」だけで突破できるか?そんなことを試される試験でした。

そして今回の受験での絶望的な手応え・・・。



僕が6年間の大学生生活で学んだことは、「自分のモチベーションや克己心(だけ)に頼ってはいけい」というということです。自分のやる気というものは(少なくとも僕の場合は)毎日かわります。そして、何か大きなことをなしたいとき、そこで一番必要なのは継続して安定した努力であることは自明です。

自分の、大きないつか達成したい目標と、毎日のヘタレな自分。その乖離が、耐えられないし、なんとも情けない。「努力すればいいんでしょ?頑張るだけでいいんでしょ?」そんな甘いスタンスでなんとなくうまく人生を渡れてきた自分には良い洗礼でした。結果試験は合格していましたが、結果だけが支配する大人の世界へようこそ、ってところでしょうか。 



さあ、諦めずに進んでいこう。
 
USMLE STEP1 SCORE 210 PASS   
usmle

臨床医としてアメリカに行くには、まず資格( USMLE STEP1,2CK, 2CSの3つ)を取得し、英語力を高め、アメリカ人による推薦状を手に入れる必要がある。

それを一つ一つ確認してみよう。

USMLEの勉強に関して
STEP1は内容がかなり基礎寄りで、実際に働いてからもほとんど覚える事のない知識ばかりなので、基本的には暇な学生の時に受けるべきだろう。そして初期研修が開始してしまうとまとまった時間を確保するのは難しく、何より初期研修に身が入らなくなるので、余りオススメしない(ちなみに僕はこのパターン)。学生中にSTEP1さえ取れれば、STEP2CKに関しては比較的とっつきやすいので、だいぶ気が楽になる。勉強法は決まってるので割愛。

一つだけ言えるとしたら、NBMEの模試はちゃんと受けましょう。一回50ドルもするが。僕はこれを受けずに本番に突撃し玉砕しました。
 
そしてSTEP2CSだが、希望する受験日がかなり早い段階で埋まってしまうことに注意していただきたい。おおよそだが、現時点から半年先までは埋まってしまっていると考えて欲しい。ちなみに日時の変更は比較的自由にできるので申し込みは早めに行っておこう。僕は今年の7月の受験を希望して4月に申し込んだが既に埋まっていて、9月の受験を予定している。 


初期研修に関して
日本で初期研修を終えずにアメリカ行くことはお勧めできない。なぜなら「臨床研修修了書」というものがないと、国内で一人前の医師として認められないからである。なので日本に帰らない覚悟がない限りは、2年間は日本の研修指定病院にて初期研修を行うこととする。 

研修病院を選ぶ際の注意点として、初期研修を終えた今の僕だから指摘できることがある。それは、初期研修でどんなにハードで為になる研修を行っても、全くアメリカへの就職には有利にならないという身も蓋もない事実である。アメリカ側が我々を評価する情報源は、書類や成績と言ったデータでしかなく、我々の医師としてのポテンシャルは全く顧みられない。なので初期研修でハードで実りある日々を送ろうが、上級医のいいなりで9時-5時で帰ろうが、全然影響ない。 
 
もしプラスに働く要素があるとしたら、それはアメリカにチャレンジしたことがある同僚や先輩が在籍しており、そういった特殊な就職活動へのアドバイスをもらえるという点のみだ。そういった観点で探して意味がありそうな病院としては、手稲渓仁会病院、亀田総合病院、聖路加国際病院、東京ベイ医療センターなどが挙げられる。俗にいう「人気研修病院」である。

逆にそれ以外であれば、大学病院の方が都合は良い。アメリカでは市中病院よりも大学病院の方が人気で優秀な人が集まるため、評価が良くなる。そして何より暇なので、留学やUSMLE対策がしやすくなる。


英語
軽視されがちだと感じるのは、「英語力そのもの」である。当たり前だが、医師という仕事にコミュニケーションはつきものであり、英語を使えこなせないとアメリカで働くのは難しい。アメリカにいてから英語は勉強したらいいや、というのは通用せず、面接で落とされてしまう。 
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タイムライン
学生中や初期研修医中にUSMLEを1つも取得できない場合
米軍病院在籍中にUSMLE1,2CK,2CS,TOEFLを一気に取得することを目指す。この場合は初期研修2年+米軍1年+マッチング1年で、最速で医師5年目としてアメリカに飛ぶこととなる。 

USMLEをちょっと受かっている場合
米軍病院の最初の数カ月でSTEP2CK,CS,推薦状をゲットし、米軍病院在籍中にマッチングを行うことを目指す。マッチングは9月15日開始ではあるが、USMLEの結果が受験をしてから1ヶ月後ぐらいしか出ないことを考えると、4−8月の4ヶ月しか準備期間はない。初期研修2年と米軍病院(+マッチング)1年の計3年が必要で、医師4年目としてアメリカの医療シーンに潜り込むことができる。
 
全て揃っている場合 
逆に言えば、USMLEと推薦状を研修医2年目の9月までに用意できれば、米軍病院に行く必要はなく、その年にマッチングに参加できる。この場合は医師三年目からアメリカとなる。かなり無理ゲーだが、実際に知り合いでこのパターンで渡米を実現している人もいる。

その他
それ以外のキャリアの人は「米軍病院1年間+マッチング半年」 が最低でも必要である。2年の準備期間を見込めば良い。
 

アメリカ人との比較
日本の医学部は6年間であり、現役18歳で入学しても卒業時は24歳だ。初期研修2年と米軍病院が1年かかり、スムーズにいっても28歳になる年にアメリカに乗り込むこととなる。イチローがメジャーに挑戦したのは27歳だが、それよりも一年ビハインドである。

ところで、アメリカの学生は大学4年間+メディカルスクール4年間の計8年間大学に行くので、レジデンシーを始めるのは最速でも27歳になる年である。日本からでもわずか1年遅れでいけると思えば、そんなに劣等感を感じる必要もないかもしれない。


それでは、新大陸を目指す勇者たちに幸あれ! 

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